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「此の大阪の外れに、ちょっとした山林があるのは知っているかい?」
「いや、ワシは知らないが……三成、知ってるか?」
家康の言葉に、三成は自信満々な様子で頷いて見せる。
それだけでなく、
「貴様、豊臣の一員でありながら秀吉様の領地の事すら知らないのか」
と、軽蔑の目を向けられてしまった。
家康は苦笑しながら顎を掻く。
家康はほとんど三河にいるため、大阪の地形を知らないのも仕方がない。
だが弁解をしないのは、今下手に三成を刺激しては不味いと思っての事だろう。
場を荒らさないように遠回しに配慮してくれた家康に心の中で礼を言いながら、半兵衛は続きを話し出した。
「それでだね。そこの山林に今妙な噂が立っているんだ」
「噂、とは?」
三成が問うと、
「ああ。……家康くん、今の季節は何だい?」
と、大真面目な顔で問うてきた。
「えっ……今は、冬、だと……」
何故こんな質問をするのだろう。
謎かけか何かなのだろうか。
家康がしどろもどろに答えると、半兵衛は頷き、
「そう、今は冬なんだ、間違いなくね。でも最近、その山林の真ん中辺りで、満開の桜の木が目撃されているらしいんだ」
「はぁ!?」
家康は思わず、立ち上がってすっとんきょうな声を上げてしまった。
三成も声までは上げなかったものの、驚きで目を皿のようにしている。
桜の花は、本来春に咲くものだ。
幾ら早咲きの桜でも、真冬に咲くはずがない。
「単なる見間違いなんじゃないのか……?」
「僕も最初はそう思った。そこで、秀吉に兵を貸してもらって調べてきて貰ったんだ」
「そ、それで?」
家康はすっかり話にのめり込み、わくわくした顔で半兵衛を見つめている。
貴様は餓鬼か、と突っ込んでやりたくなったが、まさか半兵衛の話の邪魔をする訳にもいかないので黙っていた。
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