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そうしたら、と神妙な顔で続ける半兵衛。
「あったんだそうだ。花をたくさん咲かせた、立派な桜の木がね」
だが調べてに行った兵たちは、驚きと恐ろしさにそのまま逃げ帰ってきてしまったのだそうだ。
半兵衛に任された仕事を放棄した兵を残滅しに行こうとする三成を止め、半兵衛は溜め息を吐いた。
「他の兵をやっても同じことになったら意味がないからね。だから、君たちに頼もうと思ったんだよ」
なるほど、と納得した様子で頷く二人。
三成と家康ならば、滅多なことで怖がったりしないであろう。
もし何か恐ろしい者が居て襲ってきたとしても、十分に応戦できる。
「本当は、僕が直接行こうと思っていたんだけれど」
と半兵衛。
「そんな所に一人で行かせる訳にはいかないって、秀吉に止められてしまったんだ」
苦笑しながら言う。
「当たり前です!」
三成は立ち上がって叫んだ。
そして、半兵衛が豊臣軍にとって如何に大切かを長々と語り始める。
そんな彼を適当に流しながら、半兵衛は家康に、
「まぁ、三成くんはあんな調子だから、任せたよ」
「はぁ……」
任されても一体どうしたらいいのかいまいちわからないが、とりあえずそう返事をしておいた。
半兵衛は懐から紙を取りだし、二人の前に広げた。
その例の山林の、大まかな地図のようである。
「この印のところが、その問題の桜があるらしいところだ。似たような景色が続いて迷い易くなっているから、注意が必要だよ。気を付けて」
「はいっ!」
寺子屋に通う子供のように、物凄い元気のいい返事をする三成。
半兵衛は満足そうに笑い、二人の肩を叩いた。
「じゃあ、宜しく頼むよ」
こうして、二人は冬の雪山へと出発したのだった。
そして半兵衛の心配どおりに、現在進行形で迷っている訳である。
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