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「御心配して頂いたにも関わらず迷ったなど、半兵衛様に申し訳が立たない……」
ぎりぎりと歯軋りをしながら、地図を睨み付ける三成。
家康はその鬼気迫った様子に何も言えなくなり、口笛を吹いて明後日の方向を向いた。
もはや時刻は夕刻に差し掛かる所であり、日の光の恩恵を失った空気は瞬く間に体温を奪っていく。
挙げ句の果てに天気もすっかり悪くなり、段々吹雪いてきたではないか。
「な……何だかやばそうだな、三成……」
「無駄口を叩いている暇があったら歩けと言っているだろう!」
三成が吠える。
吹雪はあっという間に強くなり、視界は真っ白に染め上げられた。
隣に居る筈の互いさえ、満足に見えないほどだ。
普段はふわふわと柔らかい雪が、今は体に激しく当たって痛い。
まるで、此方に来るなと、二人を拒んでいるかのようだった。
「っ、三成、居るかっ?」
風の音に掻き消されないように大声で言う。
「当たり前だ。貴様こそはぐれたら捨て置くからな……っ!」
「どうした、三成っ?」
三成は息を呑んだ。
先ほどまで持っていた筈の半兵衛の地図が、何処かに消え失せていたのである。
「は、ははは半兵衛様より賜りし地図が……」
「み、三成?」
「うおォォォォォォォォォォ申し訳ありません半兵衛様ァァァァァァァアッ!!」
「三成ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
突如三成は、くるりと向きを変えて走り出したのだ。
地図を探しに行こうとしたのだろうか。
しかしこんな吹雪の中、見つかる筈がない。
家康が止めようと手を伸ばしたが、そこにはもう三成は居なかった。
「……っ」
一瞬躊躇した家康だったが、風の中で辛うじて聞こえる三成の絶叫を頼りに、そちらの方へ走り出した。
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