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私が、男のフリをしているのには理由がある。
病で言葉が上手く話せない上にたまに手や足が痙攣を起こすのだ。
女子の仕事というと針仕事など手先が器用でないと務まらない。
心配性な父は自分の目の届く所に置いて置くため姫ではなく、子息として育てた。
私が14歳の年。
享保9年8月。
暑い日だった。
父が青年を連れてきた。
「いいか。長福丸(ながとみまる)。お前はこれからこやつにしか話をしてはいかん。声で女とばれるやもしれないからな」
横にいる青年は爽やかに笑った。
「大岡忠光と申します。あなたの事は上様から聞いております。これからは私があなたの口となり、手となり、足となりましょう」
そう言って爽やかな青年は私の前に膝まづいた。
「頼んだぞ」
父は、青年の肩をぽんと叩いてその場を去った。
「ち、ちち、う…え」
私の言葉は届かなかった。
女の園、大奥で育った私はいきなり異性と二人きりにされてどうしたものか悩んだ。
「あ、あの…そち、、、と、と、年はいくつじゃ?」
「17でございます」
「そうか、、、3つ、、、上、、、じゃな」
「長福丸様は、女として生きたいとは思われないのですか?」
虚をつかれた。
小さい頃より男として育ったので考えたこともなかった。
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