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「わ、わた…しは、男だ」
忠光は笑った。
「面白いおひとだ。当初は嫌々だったんですよ。おなごの、しかも言語不明瞭の子守りなんて武士のすることではないと思ってね」
「こ、、、こ、も、り?!」
私が憤りを感じていると忠光はすっと近づいてきた。
「気に入りました。」
「え?」
「私は、一生あなた様の側におりますよ。」
忠光は耳元でそう囁いた。
私は、耳元から熱くなるのを感じて忠光から離れ胸元から扇子を取り出しあおぐ。
「こ…とし、は、あづ…い…のう」
しかし、忠光はまた近づいてきた。
「あおいであげましょうか?」
「け、け、結構じゃ」
「噂で、高貴なお顔をされていると聞いた事がありますが噂以上だ」
忠光はまげを結わず、顔を覆っていた私の髪をそっと分けた。
そして、出てきた私の顔を見つめる。
人の目を見て話すのはいつぶりだろう?
そこにいた忠光は凛々しく男前だった。
「そ、そなたも、、、男前…ではないか」
「有り難き幸せ」
忠光は私の頬を手で覆うと優しく唇を重ねた。
女中達の噂で聞いてはいたが、これが接吻。
頭が真っ白になった。
「今日のところはこれで。私は二の丸におります。いつでもお呼び下さい」
唇に指を滑らせる。
忠光が去った後も、ぼーっとしてまるで思考が停止して心臓が張り裂けそうだった。
これが、忠光との出会い。
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