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葵を連れて逃げた菫を見た花山さんはナイフの先を見せる青年に臆することもなく、食器を片付けていく。
「てめぇ、なめてんのかっ!!」
青年は気が短いようで花山さんにナイフを突き付ける。
「全く……そんなへっぴり腰でナイフを突き付けるなんて構えがなってないよ」
ひょいとナイフを取り上げ、青年を今まで学生たちに振り撒いていた笑顔ではなく、鋭い眼光を宿した花山美千留(みちる)として睨み付ける。青年から見れば猫が瞬時に獅子に変わったようなものだ。
青年はぺたりと座り込み、真っ青な顔で両手をあげる。こういう青年は扱いやすくていいと美千留は思う。厄介なのは、己の力が及ばないのに歯向かってくる犬だと思っている。
「さてと、あんたも入り口の子を連れて元の生活に戻りな。二度とこの世界に戻ってくるんじゃないよ」
青年は何度も頷き、入り口に向かって走る。気を失っていた彼女たちも起きていたようで話し声が次第に遠ざかっていく。
「やれやれ……そっちは任せたよ、菫ちゃん」
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