5人が本棚に入れています
本棚に追加
女は動じない。女は何事もなかったように一枚のカードをめくる。裏に向いているカードを一枚、一枚表に向けていく。
「さて、朝賀涼太(あさかりょうた)さん。貴方は脱法ハーブを大学生に売りさばく…地に堕ちた堕天使と名乗っているようですね」
涼太は驚いた。本名を知る者は少なくともこの大学生には居ないはずなのだ。しかも、密売人としてのあだ名も知っている。この女は何者だ?
「ただの占い師ですよ。それに必要なことはこの子たちが教えてくれますし、まあ、言い逃れは出来ませんよ」
女は愛しそうにカードを撫でる。涼太はとっさに逃げようとするが、脇腹に痛みが走り、動けなくなる。
「貴方は悪くありません。悪いのは貴方のお兄さまでしょう?もう貴方の人生を好転するのは出来ませんが、頼みがあるのなら……お聞きしましょう」
涼太はがくりと床に膝をついた。この女が言っていることに間違いはない。悪いのは兄なのだ。兄がヤクザの舎弟にならなければ、涼太は医学生として生きていけたのに。
最初のコメントを投稿しよう!