平家物語

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女は動じない。女は何事もなかったように一枚のカードをめくる。裏に向いているカードを一枚、一枚表に向けていく。 「さて、朝賀涼太(あさかりょうた)さん。貴方は脱法ハーブを大学生に売りさばく…地に堕ちた堕天使と名乗っているようですね」 涼太は驚いた。本名を知る者は少なくともこの大学生には居ないはずなのだ。しかも、密売人としてのあだ名も知っている。この女は何者だ? 「ただの占い師ですよ。それに必要なことはこの子たちが教えてくれますし、まあ、言い逃れは出来ませんよ」 女は愛しそうにカードを撫でる。涼太はとっさに逃げようとするが、脇腹に痛みが走り、動けなくなる。 「貴方は悪くありません。悪いのは貴方のお兄さまでしょう?もう貴方の人生を好転するのは出来ませんが、頼みがあるのなら……お聞きしましょう」 涼太はがくりと床に膝をついた。この女が言っていることに間違いはない。悪いのは兄なのだ。兄がヤクザの舎弟にならなければ、涼太は医学生として生きていけたのに。
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