平家物語

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「…昔のことを思い出していたのですか?」 菫の声が聞こえ、美千留は過去から戻っていく。微かに手が動き、テーブルに置かれた湯飲みの中で緑茶が揺らめいた。 「あぁ…おや、もうこんな時間か。菫ちゃんはもうすぐ講義の時間だろ?」 食堂の壁にある時計は3時45分を指している。4時から菫は講義があるのだ。菫は立ち上がると頭を少しだけ下げて食堂から去って行った。美千留はじっとその後ろ姿を見つめていた。菫が図書室へ行くために角を曲がり、姿が見えなくなると大学の入り口に繋がる廊下から見覚えのある男性がこちらへ向かって来ている。白髪混じりの黒髪に灰色のスーツ。美千留が思い付くのは一人しか居ない。 「津川さん、また来たのかい?」
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