平家物語

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「そう言えば、津川さんにも昇進があったらしいけど辞退したんだって?今の世の中じゃ珍しいねぇ」 やかんをコンロから下ろし、珈琲の粉末を入れたマグカップにお湯を注ぐ。珈琲の良い匂いが美千留の鼻を抜ける。美千留は煙草の臭いがあまり好きではないのだ。 「馬鹿なのは上だろう。俺は菫ちゃんのことを優先するから昇進何ぞ要らんと言ってあったのを忘れやがった」 美千留がマグカップの乗ったお盆を持って津川の居るテーブルに来た。津川は煙草をスーツのポケットから携帯灰皿の中に荒っぽくねじ込む。 「津川さんがいつも考えてるのは菫ちゃんのことだものねぇ。まぁ、あんな訳を知れば少しぐらいは気持ちも分かるけどさ」 マグカップを美千留は津川の前に置く。津川は舌打ちをしてマグカップを口許へ持っていき、珈琲を一口飲む。いつも署で飲む薄くて苦味も分からない珈琲とは違い、濃厚な苦味が口に広がる。
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