平家物語

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津川が珈琲の苦味で眉間にシワをよせる。マグカップをテーブルの上に置くと美千留はくすりと笑う。因みに美千留が飲む珈琲は砂糖が入っており、苦くはない。 「相変わらず署の珈琲は薄いみたいだねぇ。そう言えば、瀬戸君は署に置いて来たのかい?」 美千留の言った瀬戸君とは津川の唯一の部下で津川と共に大学へ来ることもある。だが、菫はまだ瀬戸に心を許していない。そのため、津川の車である白のクラウンで送り迎えをするだけだが、時々食堂まで津川と一緒に来ることもある。 本名は瀬戸拓磨と言って、人懐っこく幹部からも可愛がられている一人だ。 「瀬戸なら署で雑用を頼んできた。菫ちゃんが気まずそうにしてるのを見てたら、な」 菫のことを誰よりも心配している津川らしい答えだ。テーブルの上の珈琲が津川の顔を映して揺らぐ。
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