平家物語

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瀬戸は持っていた書類に目を通す。10年前に起きた都内に住む女性が自殺した事件。その書類はそんな感じの報告書で極秘書類でもなさそうだ。だが、担当者を見た瞬間に瀬戸はぴたりと、まるで時間が進まなくなったみたいに動きが止まった。 事件の担当者は津川だった。そして、自殺した女性の名前は。 「……神月優菜」 神月という名字はそんなに多くはないので偶然とは言い難い。津川が何よりも大切にしているのは神月菫という大学生だ。確か、菫はいつも津川を叔父と言っていた。 もし、二人が血縁関係のない赤の他人なら。この事件で知り合ったとしか思えない。瀬戸は紙に穴が空くぐらい隅々まで目を通していく。 自殺の動機は優菜の両親が強引に優菜と夫を離婚させ、あまりの辛さに数日後、夫が自殺したから。優菜は有名な大手企業の代表取締役である神月聡一(そういち)の一人娘。故に両親から政略結婚をするようにと言われ続けていたようだ。 優菜の夫はその企業に勤めていたらしく、企業主催のパーティーで知り合い、交際する仲になった。何の感情もない政略結婚を嫌い、自由に恋愛をして生きたい、と遺書に書かれていたようだ。
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