平家物語

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下の方には両親から聞いた優菜のことがこと細かに書かれている。今の津川とは比べ物にならないぐらい丁寧に仕事をしていたことを報告書が示していた。今の津川は瀬戸に雑用を任せ、事件の応援要請にも応じない。一部の幹部らは津川のことを怠け者と罵っている。 瀬戸の知らない昔の津川。彼に何があったというのだろう。過去の津川をよく知る人物は瀬戸の頭の中では一人しか思い付かない。 「棚橋医院に行ってみようかな…」 棚橋医院は警察署にほど近い医院で院長の棚橋医師は津川の同級生でもある。そのため、津川はよく棚橋医師に会いに行く。瀬戸も場所なら知っている。津川の居ない今なら話を聞くことも出来る。 瀬戸は書類を折り込み、スーツの内ポケットに入れると資料室を後にした。既に書類の整理は終わっている。先輩たちから文句を言われることもない。念のため平警部に仕事が終わったことを報告し、津川が呼んでいる、と嘘の用事を言って署を出る。 平警部は瀬戸の言葉を疑うこともなく、頷いていた。
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