平家物語

37/37
前へ
/49ページ
次へ
綺麗な字は筆で書かれ、よく見れば紙もかなり高級そうな和紙が使われている。必然的に菫を誘拐した犯人が瀬戸の頭に浮かぶ。 国内有数の大企業、神月グループの会長であり、菫の祖母である神月松葉(まつは)。神月グループ内を牛耳る凄腕の会長であるが故に血縁者には自由を与えない。 菫の母、優菜を自殺に追い込んだのも松葉なのだから。松葉の夫である総一は控え目な性格で実際、松葉が運営しているために操り人形のようになっているらしい。 「会長のババァが上に賄賂を渡したらしくてな、俺は一週間の自宅謹慎だとよ。全く、菫ちゃんを助けに行くことも出来ねぇ」 津川が独り言を呟く。瀬戸は黙って聞いていたが、しばらくすると喋り出す。 「津川さん、今回のことは僕に任せてくれませんか?」 何か手段があるのだろうか、瀬戸の瞳には自信に満ち溢れて、不安で落ち着かない津川を不思議と落ち着かせた。 津川が頷くと部屋を出て、瀬戸は数日間の休みをとりたい、と上司の平に申し出ると、平は快く承諾してくれた。 「瀬戸は最近頑張ってるから、構わんぞ」 と言って警察署には不釣り合いな笑顔を浮かべる。瀬戸は平に頭を下げると署を出た。携帯を取り出し、ある番号に電話をかける。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加