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葵が名残惜しく席を眺めていると、菫が忘れていた本に視線が重なる。何処と無く古びた表紙の平家物語。
後で届けに行った方が良いかもしれない。葵が本を持ち上げると、突然、腕を掴まれた。
「へぇ……君が葵ちゃんか…」
耳元でささやかれた声で葵の肌に鳥肌がたつ。嫌らしく、妙に色っぽく低い声。腕を振り払い、逃げようとするも、入り口には先ほど話していた彼女たちが塞いでいた。
「逃げるの?…俺は別に構わないけど、葵ちゃん」
染めた茶髪、目尻の下がった黒の瞳。顔立ちはそれほど良いとも言えない。普通に繁華街に居そうなチャラい青年だ。彼は葵の腕をまた掴む。
「……貴方、誰!?離してよっ!!」
葵が渾身の力を振り絞り、青年の手から逃れようとしてもびくともしない。さっきはわざと離したのか。
「ねぇ……今から良いことしない?」
花山さんに助けを求めようとしても、その後ろ姿が動くことはない。葵は後から気づいたのだが、花山さんの横にはナイフで脅す青年がもう一人居たのだ。
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