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花香がそっと社長室を出ると、部品運搬者のおばさんがこちらに気付いた。おばさんはこの会社が起業してからずっとお世話になっている人であった。花香はこんにちは、と声をかけた。
「あら、花香さんお疲れ。ねぇ、さっき泰三さんがすっごい機嫌良さそうにジョギングに出かけていったけど、何かあったの?」
おばさんは台車を華麗に止めて不思議そうに訊ねてきた。
「お疲れ様です。社長は……実はまた変な発明をしたんですよぅ……」
「あらあら、それは、困るわねぇ……で、どんな発明なの?誰にも言わないから、こっそりと教えてくれる?」
おばさんは辺りに誰もいないことを確認して、耳を花香に近づけた。
「それがぁ……駄洒落でコンピュータを冷やす装置なんです。ちょっと使っていて恥ずかしくありません?」
「駄洒落でコンピュータを冷やす……?なんてまぁ、恥ずかしいというか……。もっとまともな発明は出来ないものかと思ってしまうよ」
おばさんは呆れたように深く溜め息をついた。
「ですよね……。あ、私そろそろ次の仕事があるんだった。おばさん、私はこれで失礼しますね」
「そうかい、じゃ、頑張ってね」
おばさんが手を振るのを見て花香はその場を去っていった。だが、廊下の角を曲がる際にふと来た道を振り返ると、まだ、おばさんが社長室の前に立っていた。
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