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「ねえ、恭介。わたしのこと、憶えててくれた?」
空気が変わった。
先程までと明確に。
「忘れるわけねえだろ」
小手川がなにを言いたいのかわからないが、これは胸を張って言えた。
そもそも。
手紙なんかこなくても忘れるわけがなかった。
忘れられるわけがなかった。
「ねえ、恭介。あのね、その……………何があってもわたしのこと、嫌いにならない?」
冗談を言っている雰囲気ではなかった。
たまに見る、真剣な表情の中に不安が織り混ざっていた。
つまり、本気で言っているということ。
「くっだらねえな」
心底くだらなかった。
本気でこんな戯れ言を言ってくるとは思わなかった。
「この数年の間になにがあったのかは知らねえ。蛍がなにを背負っているのかもわからねえ」
おそらく、朝霧が知らない間に嫌われると思うほどの『なにか』があったのだろう。
だとしても、朝霧はたった今高校生になった男だ。
人生経験が豊富というわけではない。
小手川が背負っているものを知ることができたとしても。
今ここですべてを暴露されたとしても。
口にすることができるのは、安っぽくてちっぽけな言葉だろう。
だが。
「でもな、これだけは断言できる」
結論はでている。
変わることも変えるつもりもない。
例え、蛍になにがあろうとも。
「蛍は俺の友だちだ。嫌いになるはずねえだろ」
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