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「おい! どこ行くんだよ!」
ロットの声が離れた。
後ろを追ってくる。
追われて、どこに逃げると言うのだ。
行く場所は決まっている。
それにロットが本気になれば逃げられない。
結局、走るのをやめるしかなかった。
「あのな。
別にシャスカさんになにかしろとか言ってるわけじゃねえんだ。
ただ、聞いておいてほしくてよ」
「ああ、わかった……わかったから」
無力に頷くしかなかった。
単にロットの間違いという考え方もある。
しかしロットは戦闘のプロだ。
力を計り間違えるということはおそらくない。
もしロットが言ったことが事実でないとしたらそれは謀略になるが、仮にも一緒に暮らしている仲だ。
無礼なくらいに正直な彼がそんな嘘を言うとは思えない。
シャスカとロット。
心の中でどちらかを選ばなければならないのなら、考えるまでも無く答えは決定している。
言いにくい。
父が以前言っていた。
全てのものを納得させられない状況があり、いつかそういう場面にきっと巡り合う。
それは王であろうとなかろうと同じだと。
振り返る。
困惑した顔のロットがいる。
彼の眼にはどんな姿が映っているだろう。
威厳ある王族の姿か、はたまた惑い震える哀れな姿か。
ロットの後ろにイゼが見えた。
逃避と言われるかもしれないが思考がそちらに移った。
「イゼ、お前どうして追ってきた? またあそこへ戻らなければならないだろうに」
お前には戻る所があるだろうに。
誰も疑わずに済むだろうに。
「あそこへはもう戻りません」
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