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はっきりとした返事をもらえなかったイゼが心配そうにロットの後姿を見ている。
「それはない。
大歓迎している。
お前が勘違いしてよそへ行ったらあいつは嘆く」
イゼは不思議そうにしながらロットの後を歩き始めた。
彼の恋心はまだ彼女に届いてないようだ。
先を行き過ぎるロットを呼び止めて三人並んで帰る。
もうすっかり空は暗くなっていた。
途中イゼがエルーの話をしてくれた。
彼女がまだ黄国にいた頃は今と随分印象が違うらしい。
女だてらに軍の中で才能を発揮し、幹部候補と呼び声高い存在だったとちょっとした語り草になっているらしい。
「ただ彼女は余りにも厳しすぎて。
己にも周囲にも。
それで多少孤立したところがあったそうです」
「黄族の中で厳しいって言ったらかなりのモンなんだろうなあ」
ロットが呆れたような声を出した。
生真面目で融通が利かないのが黄族の特徴だ。
「彼女がこちらに送られたのは……はっきり言ってしまえば左遷です。
彼女を良く思わない連中は沢山いますから」
今のエルーからは伺い知れないエピソードだ。
とてもではないが周囲に厳しくあたるようには見えなかった。
「ひょっとして、鉄の旋律か?」
ロットが突然大きな声を出して耳慣れない言葉を口にした。
イゼが頷く。
「そういう風に呼ぶ人もいました」
「うひょーっ! 俺ひょっとして殺されてたかもしれねえな」
「何のことだ?」
聞くと、ロットは知らないことが意外だ、とでも言いたげに表情を固めてからもったいぶった口調で説明を始めた。
「噂だよ。
黄族にえらく厳しくて冷てえ武官がいるってな。
どんな細かいことでも規律を乱した奴は二度と信用しねえ、ほんっのわずかな遅刻でもひでぇ処分を受けたらしいぜ」
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