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遅刻の部分を強調したので、ロットはもしかしたら遅刻が多かったのかもしれない。
「彼女がまだ黄軍にいた頃私に会っていたら、多分私はその日の内に除隊して今ここにこうしてはいないでしょうね」
「強さのほうもとんでもなかったんだろ?」
「ええ。
王族を除けば、国内で五本の指に数えられていましたから。
私などは彼女とは比
べようもないくらいできが悪くて。
こちらで初めて会った時は緊張して、正直恐ろしかったです。
何から何まで指摘されそうで」
ため息。
取り越し苦労を思い出しているのだろう。
噂だけの彼女を聞いていて、実際に今の彼女に会ったなら拍子抜けもするはずだ。
唖然としているイゼが眼に浮かぶ。
「ところがご存知の通りのすっかり丸くなった彼女に出迎えられて、軽く黄国の近況を尋ねられて、あとは丁寧にこの世界のことを教えてくれました。
その時はわけがわからなかった。
人違いと思ったくらいです。
でも、彼女の夫となった人間と会ってわかりました」
悲痛な顔をする。
この顔を知っている。
体験した。
シャスカに人間の恋人がいると知った時、なんとも言えない気持ちになった。
安堵、嫉妬、落胆、嘆き。
そして疎外感。
「あの愛し合う幸せが彼女をあれだけ変えたんです。
それを壊したくない」
イゼはひょっとしたら無理に毅然とした自分を律しているのではないだろうか。
この繊細な彼女が彼女の本質のように思える。
「だから、ロットさんのお父君にもきっと変わってしまった理由があるはずです。
理解し
てあげてください」
禁句に触れたのでどきりとしたが、上機嫌なせいか今度はロットも怒り出すことはなかった。
特にどうといことはない表情でただ頷いている。
「見えてきたぜ。
あれが今日から俺達の城だ」
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