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ロットが指差した、弱い街灯に寄り添って建つ茶色い建物が今夜は堂々として感じられた。
お世辞にも城とは呼べない。
月が高い。
黒族の提案から人間界を審判することが決まって以来ずっとつきまとっていた胸騒ぎが少しだけ晴れているような気がした。
部屋に入り薄汚れた畳に敷くものもなくロット、イゼと顔をつき合わせて座り込む。
ロットは顔が緩みっぱなしで、イゼは興味深げに部屋を見回していた。
とは言え狭く何もない部屋ではたいした時間はかからず視線はすぐに目の前のロットへと注がれた。
しばし黙
ったまま見つめ合い、一方的に気まずい雰囲気が流れる。
「何もない部屋だろう。
余も初めは驚いた」
「いえ……ちょっと、そうですね」
ロットが一向に喋らないので声をかけてやると、救われたような笑顔でぱっとこちらに向きを変えた。
「その、ところで。
寝る所は?」
動揺しながらの精一杯の笑顔。
その薄っぺらい防御に今すぐ残酷な言葉を叩き付けなくてはならないのは心苦しい。
「ここだ」
「は?」
「嘘でも冗談でもなくロットが許可を得て借用している場所はこの部屋だけだ。
この部屋で生活のほとんどを行う」
呆けまま固まってしまった。
貴族出身の素直な反応だと思う。
床面積はかろうじて全員寝転べる程度。
置いてある物と言えば湿っぽい毛布が二枚と壁に数着の服と日光対策に分厚いカーテンがかけてあるだけ。
「これ程とは……シャスカ様が戻るよう説得するはずですね。
よくわかりました」
「お前もやめるなら今のうちだ」
「いえ、それよりも私が来たせいで狭くなってしまい申し訳ありません」
「狭いのは元々だから気を遣うな」
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