* 白 * 約束は?

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「ないな」  枯れ枝がへし折れるような音がロットから聞こえてきたので何かと目をやり、ぎょっとした。 やや反り返った一本角だったロットの角が肥大化して枝分かれを始めている。 赤族は力を解放するに従って角を含め姿を変えるという。 横にいて逃げ出したくなるような圧力を感じるこのロットの力がまだ全力ではないというのだろうか。 いや、だからこそロットの角は変形しているのだ。  向けられた殺意が強くなっていくというのにアリオは平然とした様子でロットを見ていた。 この余裕はやはり黒族が圧倒的な力を持っている証明なのだろうか。 「お前は兵隊だろう? 争いが起きることを糾弾できる立場か? おっと大義などナンセンスなことは口にするなよ。 戦争に大義などつけて犠牲になった者に胸を張れるか?」 「張れる! 俺たち赤軍は戦う為よりも護る為を優先する! 誰だって家族を護る為なら、命を懸けられるもんだろうが!」  アリオの頬がより一層邪悪に歪んだ。 「お前の父上殿もそう考えているだろうか?」  角も出ている。 これだけ興奮していて、更にはイゼもいない。 もうロットの抑制は働かなかった。  一瞬の間に距離を詰め、赤い炎のようなエネルギーに包まれた右腕をアリオに叩きつけるべく振りかぶった。 「くそったれが!」  大義などとは一切関わりなく放たれた一撃は単なる私心から来るものだった。 それだけに純粋な怒りの一撃をアリオは無表情で受け止めた。 迫る腕をアリオが軽く叩き落とすと鈍い音がしてロットの右腕の炎が消える。 「くそっ、そんな馬鹿な……」  ロットは震えている。 危険を感じて彼の横へ移動し、一緒に下がらせる。 ロットは叩かれた腕を押さえ必死の形相でアリオを睨みつけていた。 もうそれくらいしか出来ないほど痛みを感じているのだろう。 この実力差は予想外だ。 「一つ聞きたい」  あくまで平静を保ち続けるアリオが相変わらず涼しい顔で見下すような眼を向けてくる。 「お前は現在の赤の中でどの程度の実力者か? 返答次第でどの程度がっかりしたらいいか考える」
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