* 白 * 約束は?

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「うるせえ! うるせえ!」 「まったく、子供のようだな。 この場でお前たちを捕虜にすることも可能だというのに。 少しは永らえる為に頭を使ったらどうかな」 「言ったろ! 俺は護る為に戦うんだ! 自分の命なんて惜しくねえ」  場が膠着する。 主導権はどう考えてもこちらにない。 どうにかして状況を好転しなければ、この場で絶命することになりかねない。 「白族のキュイ王子」  不意に呼び止められ思考が停止する。 「最善策などないよ。 何かを犠牲にしなければ生き残れない状況もあるだろう。 先ほど捕虜という言葉を使ったが、言うなればこの世界全体は我々鬼の捕虜のようなものだ。 どうかね、君達が生き永らえる為この世界を使ってみては?」  交渉だ。 陪審員として人間界侵略に賛成すれば見逃してやる。 その約束は危うい。 その場しのぎで助かったとしてもこの広大な土地と資源を巡ってまた闘争が起きる。 そしてそれを得た黒族がなにをするかなどわかりきっている。 新たに戦争をするための備えだ。 「侵略に賛成せよと言うことであれば断る。 それは我々陪審員個々の視察と思慮を持って決定することだ。 ……ともかくこの場を治めようじゃないか。 陪審員同士が争ったとなれば問題だ。 なかったことにしてやるから、退け。 他の者が集まってくる前に」 「他の者が集まってきたとして、何の問題がある? 黄族のイゼに、青族のミース。 奴らが来たところで、そのようになるだけだ」  言って、うずくまっているロットを指差す。 凄まじい気迫で睨みつけているものの、その額の角は明らかに小さくなっていた。 気力が萎え始めている。 「もう既に争うつもりか? 来るのはその二人だけではない。 我々が来るより先にこちらの様子を監督している者達、シャスカやエルーにトイト、ロットの父ラトスもな」
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