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はったりだ。
前任者たちは人間社会を監視することが任務であり、鬼界に危害が及ぶと判断された時だけに行動する。
それ以外のことは許されていない。
「王子殿、つくづく我々黒を仲間外れにするのがお好きなようだ。
前任の監督者は我々黒にもいることをお忘れか? 我が偉大なる先輩、アイジャックも健在だ」
慇懃に言って、ふと周りを気にしたように目を配る。
「誓いの力を使えない白族などいくら相手にしても怖くはないが、元世話係で王族を護る誓いをたてているシャスカを今迎え撃つのは得策ではないな……宜しい。
この場はキュイ王子のお言葉に甘えて退散することにしよう」
アリオはシャスカが王族を守る為に誓いの力を振るえないことを知らない。
だからと言ってほっとするのはもう少しあとだ。
まだ油断できない。
「これだけは言っておくが。
我々黒は今後戦いをしかけないとは約束できない。
残り半年の猶予も我々には長すぎる。
我々は短気だ。
それを憶えておいてほしい」
アリオの姿が忽然と闇に消えた。
気配を探ってもどこにも見つからない。
緊張の糸が切れその場に座り込む。
ロットももう痛みは薄れたのか表情はかなり落ち着いていたが、その代わり絶望ですすけた顔をしていた。
「力の差が、ありすぎる」
自分が言ったかロットが言ったかもわからないその呟きは悲しいくらい現実味を帯びていた。
その力に何度も感心することがあったロットですら歯が立たなかった。
全力でなかったとしてもあれだけの怒りをぶつけて、角すら出していないアリオに通じなかった。
呆然としてしまい、慰めの言葉も見つからなかった。
すっかり意識の外へおいやられていたアルバイトの現場監督が怒鳴り声を上げるまで正気を取り戻せず、いつの間にかすぐそこの信号機の下で悲痛な顔をしているイゼにも気づけなかった。
◇◆◇◆◇
いつものように夜明け前に仕事が終わり、部屋に戻っても一言も会話が生まれなかった。
力の差という大きな壁にぶつかって、平静を取り戻したらロットは逆に取り乱すと思っていた。
怒鳴り散らし荒れ狂うと思っていた。
しかし実際はまるで逆だった。
頼りなげに体を丸め、毛布にくるまって小さくなっている。
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