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「ああ知らんな。
知らんが、諦めて無難にまとめた方が楽だ」
違う。
本当はそんなこと思ってもいない。
彼女の気持ちが痛いほどわかる。
その苦悩も手に取るようにわかる。
何しろ同じだから。
「あんたに関係ないじゃない! 諦めないわよ! 駄目だからってどうして他を選ばなくちゃいけないの?」
愁は怒りながら行ってしまった。
途中で並木を蹴飛ばしつつ。
気の強い人間だ。
彼女なら不可能はないのかもしれない。
(余は……駄目だったな)
困難な道を選んでもいいから彼女にはきっと幸せになってほしい。
自分が諦めをつける為だけに冷たい言葉をぶつけて彼女を怒らせた。
彼女が想い人にまた逢えるよう努力するから許してほしい。
なんとかこの世界だけは守るから。
◇◆◇◆◇
「……ほう、これは変わったお客様だ」
既に暗くなり照明に照らされた岡山城の屋根の上、夜空が形どったかのようにアリオが突然現れた。
自分からやって来ておいてお客様もないものだと思ったが黙って見上げていた。
愁と別れてからここまで来てずっと気配を消すことだけに集中していた。
誰にも覚られることのないように。
それでもきっとアリオか、そうでなければアイジャックに見つけ出されると確信があった。
その前にどの味方も駆けつけないように気配を消していたかった。
いつまで待つことになるかと不安になり始めていたが、ようやく成功した。
ほっと息を吐いてベンチから腰を上げる。
「アイジャックはどうした? 揃っていなくていいのか」
「あなたをお迎えするにはその方が正しいかな? というか、あなたは私が何をしにやって来たと思っているのやら。
わかっていてそれほど無用心でいるのかと。
わかりやすく言えば私は罠に乗ったと」
この間よりはずっと丁寧に言って、アリオはすっと跳躍して地面まで飛び降りた。
着地と同時に周囲をぼんやりと照らしていた照明が砕け、暗闇が増した。
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