* 白 * 約束は?

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(馬鹿め。 元々死ぬ気で来たんだろう? 危険から逃げるな!)  自分を奮い立たせて頭を水面に向ける。 まだ体は動く。 まだ戦える。 出せる力がとても相手に敵うものではないことが悔しかったが。 今それは関係ない。 最初から勝つつもりなどないのだから。 地球に平和を、鬼界の戦争に理由を作るために戦っているのだから。  水中から脱するべく手足をばたつかせていると水面が泡立つのが見えた。 誰かが飛び込んできた。 誰? その正体が判別できる前に、そっと脇に手を差し込まれて上へと引っ張られた。  予想よりも早い。 目撃者になってもらう予定だった味方の到着だ。 誰知らず被害者になる作戦は失敗したが、どこかほっとしているのも本音だ。 「まったく、なんて無茶を……」  岸に上がって、濡れ鼠になったイゼが言った。 顔を直視できなかったが、彼女も角を出していた。 顎の端、耳の下辺りから口元まで顔の下半分を覆うように伸びる一対の角が黄族の角だ。 「上等だ! やってやろうじゃねえか!」  ロットの怒号が聞こえた。 続いて何か連続して激突する音。 間隔はあるが工事現場で嫌と言うほど聞いた掘削機がアスファルトを砕くような音だ。 顔を上げてみると早くもロットはアリオと殴り合っていた。 額から角も生やしていて常に力任せに殴りつける彼らしい戦い方だ。 今朝よりも善戦している。 「貴様らは王子の目的に気づいていたか? 知っていて送りだしたのか?」 「んなわけあるか! 気づかなかった俺は確かに大馬鹿野郎だよ! けどな、気付いてたら俺は絶対あいつを見捨てたりしねえ!」  アリオの挑発に更に声を張り上げ、ロットが怒り狂う。 その目には殺意がぎらぎらと輝いていた。 「私も同感です――起条三法、尖!」  イゼに庇うように前に立たれ、掌をアリオに向けた。 黄族は大地を操る。 それはこちらの世界でも通用するようだ。 アリオの足元の地面が盛り上がって鋭く尖る。 アリオは身を転じてかわしたが、そこへロットの跳び蹴りが食い込んだ。
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