* 白 * 約束は?

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「猛き炎よ、敵を包め!」  蹴り飛ばして距離が開いた標的に向かって振ったロットの腕が炎となり、アリオを巻き込んだ。 まだ炎の爆ぜる腕を高く突き上げ、ロットが次なる赤族の力を振るおうとした時、アリオがそれを制した。 「待て。 あれが――見えるか?」  燃え盛る炎から突き出た指が差す先を見て、言葉を失う。 なぜ、どうしてここに? お前にとってこれほど相応しくない場所なんて他に考えられないのに。  愁だった。 この時間なら家族と食事を囲んでいるべき彼女がここにいる。 照明も壊された周囲の闇に脅かされている。 理由はロットが叫び声を上げたことで理解できた。 「お前、一体どういうつもりだ! 公園で無関係気取ってればいいだろ!」  愁に釘付けになっていて気がつかなかったが、その横にミースがいた。 こめかみから前に突き出た青族の角を出し、引きつった笑いを浮かべている。 「動かないで下さい。 僕だって、この人間を殺したくなんかないから」 「だったらのこのこ出てくるんじゃねえよ! そいつ連れて引っ込んでやがれ!」  目をつぶってうなだれた。  アリオは策を用意していた。 圧倒的な力だけでは満足せず、確実な勝利を得る為か、それとも単に心をかき乱して喜んでいるのか。  炎が消え何事もなかったかのように冷酷に笑う顔を見ていると後者のような気がした。 「こうやってあなたたちの動きを封じれば安全を保証してくれる。 そういう約束なんです」  ミースが尻込みしながら説明した。 「そういうことだ」  言葉と共に振り下ろされた拳でロットが地面に叩きつけられ頭を踏みつけられた。 イゼが踏み出しかけた足から力を抜くのがわかった。 代わりに拳をきつく固めている。 飛び出すことがいかに無意味で、誰が代わりに危険になるかわかっているのだ。  余のことはいいから、本当に守りたい方を守れと言ってやりたかったが、愁のことが気がかりでそれどころではなかった。
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