* 白 * 約束は?

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「映研とか、そういうのじゃなさそうね……まいったな。 ひょっとして人間じゃないかもって思ってたけど、本当にそうだったんだ」  愁は表情を引きつらせている。 手足が震えているのは離れていてもわかった。 彼女の目を直視できず、俯いてしまう。 彼女には幸せを掴んで欲しかったのに巻き込んでしまった。 「ミース頼む。 そいつを放してくれ。 そいつは関係ない」 「で、できませんよっ。 これだけすれば僕はこの世界で平和に暮らせるんです」 「それが本音か! 自分さえ助かればどうでもいいのか? 確かにお前一人くらいどうでもいいからほっとくかもしれねえよ。 けどな、お前の国はどうなるんだよ! こいつが約束なんて気にするわけ――」  ロットの説得は悲鳴に変わった。 空気を震わす絶叫を上げる頭部を踏みつけながら、アリオがその顔を覗き込む。 「約束? これまで我々黒族はそんなものを気にしなかった。 これが初めてまともに果たす約束になるかもしれんし、ならないかもしれん」  どこまでも馬鹿にしている。 自身が与えた唯一の命綱にすがるミースすら、彼はその約束を危うく思わせて遊んでいる。 全てを敵に回していられるほど黒族は強い。  愁が逃げ出せる時間を作り出さなくては。 具体的にはまずミースに突撃して愁を逃がし、それからアリオを攻撃する。 ミースに約束を果たす決意ができるだけ少ないことを期待し、あとはどれだけ時間を稼げるかが勝負だ。 「キュイ王子。 私がアリオを抑えます。 その隙に――」  イゼが言った。 その腕が緊張に強張るのがわかった。 固めたままの拳が震えているのもわかる。 軍人ではあるものの彼女は戦闘向きではない。 それでもその指が固く絞まって拳を作っていられるのは巻き込まれた人間を救う為だろうか。 それともアリオにいじめられているロットを救う為だろうか。  ふっと儚げに微笑んでイゼが突撃した。 もう悲鳴もあげないロットを相変わらず踏みつけているアリオに向かって。 続いて飛び出す。 こちらは暴れ始めた愁を持て余している様子のミースに向かって。
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