* 白 * 約束は?

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 顎を引いて、ミースが怯えた表情を作った。 愁から離れたその手を取り、後ろ手にひねって組み敷いた。 小声で話しかける。 「気を失った振りでもしてろ。 そうすればお前の面目も保てるだろう」  後頭部に手加減した一撃をくわえるとミースの体から力が抜けて動かなくなった。 角も消えている。 なかなかの名演だ。 「よし、逃げろ」  愁は凍り付いていた。 じっと顔を見てくるので、耳の後ろを軽く叩く。 まっすぐ上に伸びた金色の角。 これこそが彼女達人間と鬼を区別する。 「これについて説明している暇はない。 お前がさっき言ったように人間じゃない。 鬼だ。 あとは自分の想像力で解決しろ。 シャスカに聞いても構わん。 とにかく今は逃げろ」 「逃がさない。 そう簡単には」  ためらっていた愁が頷く前にぞっとするような声が割って入ってきた。 見るとアリオがロットを踏みつけたまま、片手でイゼの喉笛を捕まえて持ち上げていた。 その注意力は足元にも手の先にも向けられていない。 じっとこちらを見ている。 「もう何も待つ必要はない。 一気に終わらせてもらう」  こちらを向いた掌が灰色のエネルギーの玉で隠れた。 黒族に限らないその力で攻撃してくるつもりらしい。 いくら誓いの力が使えないとはいえ、舐められたものだ。  愁を下がらせ、両手を交差して腰を落とす。 あの程度なら防げる、確信があった。 だが灰色の玉はこちらに発射される前に、暴れだしたイゼを直撃した。 「あぐっ」
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