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放物線を描いて地面に激突したイゼが呻きながら転がった。
アリオは何も言わず、またこちらに掌を突き出した。
灰色の玉が掌を隠し、一瞬で膨らんでアリオ自身を隠すほどになった。
危険だとわかったが全ての動作は間に合わない。
愁を置いて避けることはできてもそれでは意味がない。
交差した両手に力を込め、できるだけダメージを軽減するしかない。
爆発音がして目の前が閃光に包まれた。
てっきり被弾したものと思った。
届いたのが爆風のみでそれ相応の衝撃がないことにまず気付き、目の前に立ち塞がる影に気づいて驚く。
ミースだった。
気絶した振りをしていた彼が立ち上がり、おそらく防御の為の術を使ったのだろう。
両手を前に突き出していた。
「キュイ王子、逃げてください」
背中がそう言った。
そのまま気絶した振りをしていれば巻き添えを喰らったかもしれないが、自分だけ逃げるなり方法はあったはずだ。
疑問に捕らわれ愁を逃がすのが遅れた。
気づいた時にはもうアリオがミースを殴り飛ばしていた。
「裏切り者め」
「裏切りなんて……あなたの言うことを聞く方が僕にとっては裏切りだ!」
アリオは素早く立ち上がったミースを軽々と持ち上げ、ロットを起こそうとしていたイゼに投げつけた。
もみくちゃになって転がって、逆にロットを起こす結果になったようだ。
すぐに全員立ち上がって戦闘態勢を取る。
「シュウ、逃げろ。
時間を稼ぐから」
振り返りはしなかったが、躊躇っているのがわかった。
「お前がここにいてもできることはない! 逃げろ! それで――これまでと変わらぬ暮らしを送れ。
頼む」
後ろに怒鳴りながら、じっと見ているつもりだった。
注意をそらしたつもりはなかった。
それでも眼前にアリオが接近してくるのが見えなかった。
無慈悲に頬が吊り上がる。
その頬目掛け渾身の力を込めて拳を突き出し、成功したがアリオはまったく気にした様子はなかった。
揺らぎもしない。
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