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それぞれが先任の監察官のもとへ向かい、少なくともしばらくはその保護下に入ることになった。
まだ単独で生活する知恵も経済力も充分でないからだ。
本音を言うとそれだけが目的だった。
赤族の前任者は父だったので、十数年振りの再会に心躍らせていた。
聞いていた住所を尋ね、返事のない扉を開ける時もまさか父が変貌しているとは考えもしていなかった。
扉を開けても誰の姿も見えず、俺が国の代表として選ばれこの世界に来ていることは聞いているはずなのにと首を傾げながら部屋の奥へと進んだ。
そして、見てしまった。
「……父上?」
部屋の隅で体を丸め、俯いているそれが自分の父だとは思えなかった。
間違えて、知らない人間を訪ねてしまったと思った。
しかし注意して察してみるとそれからは確かに鬼の気配がした。
しかしひどく弱々しい。
「ロットか……よく来たな」
歓迎は言葉ばかりで、ろくに動こうとしない。
目にも生気はなくやつれていた。
「父上……一体なにが?」
信じられない思いで父を見ていた。
気が付けば膝は折れへたり込んでいた。
「別に何も」
乾いた声でかつて偉大な父だった者が言った。
誰よりも強く、果てのない任務に旅立って行った、お前は俺よりも強くなると言ってくれた、あの日の父はもうどこにもいない。
その日の夕暮れまで何も語らない抜け殻のような父を黙って見つめ、それから部屋を飛び出した。
今の父を見ることは何より辛かった。
海を泳いで渡り他の鬼達が多く暮らし、次元の歪みの出現場所でもある国に戻った。
その後の生活は思いの外うまく行った。
多くの人間に頭を下げて回り、住処も仕事も手に入れた。
他の鬼達にも何人か会った。
まず最初に白族のキュイを選んだのはその身分を考えたからだった。
彼は良い意味で王族らしくなく、付き合いやすかった。
そんな彼がある日住まわせてくれと押しかけてきた。
身分の違いや白の前任者、シャスカの立場などを考えて断ろうかと思ったが、自分が住処探しに苦労したことを思い出すと断りづらかった。
すぐに連れ帰られるだろうと思っていたら、キュイが不在の隙をついてシャスカがやって来て彼のことをよろしくと逆にお願いされてしまった。
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