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……おや、君。私の研究室にようこそ。
私の名前は蓮時諒歌(はすじりょうが)。君と同じく、この夕鈴大学で人生の一部を過ごすしがない研究者だよ。今は法学部准教授として、専門分野である憲法学の講師をしている。
……何? 本棚には憲法とは縁のない蔵書が並んでいるではないか、と。
ほほう、私の研究室に来て早速その本棚に目を向けるとは、なかなか鋭い視点を持っているようだね。
これは憲法学と並ぶ私の趣味の一つだよ。ここにいる多くの学生には、それぞれの人生と価値観がある。そして出会いがあり、別れもある。
私は、色んな人から情報を集め、彼等の世界を基礎に小説を書いているんだ。恋愛もある、裏切りに満ちたドロドロした小説もある。奇怪な行動をする人間をベースにファンタジーを描くこともある。或いは、ある人間について伝記のようなことを書くこともある。
忙しい合間を縫って小説を書くことは、私にとって至上の喜びなのだよ。
さて、君は小説を読むのが好きだったと記憶している――どうだろう、小説の才能があると過信しているつもりはないが、私の書いたものを読んでいく気はないだろうか?
――そうか、読んでくれるか! いや、有難い。私も久しぶりに読者が出来て嬉しい。ゼミの生徒も含め、私の研究室に来てくれる生徒は決して多くないのでね、
さて、話が決まった段階で、どのジャンルがいいか選んでくれ……そうか、君は恋愛に関するジャンルが好みか。
ならば、そこの棚にある本ならどうだろうか。時間も要さないし、何よりそれぞれの作品で織りなされる恋愛模様は綺麗な織物のように色を成している。私のお勧めだよ。
さあ、その椅子に腰掛けてくれ。珈琲を用意しよう……おお、それを手に取ってくれるか。
それは、独文学科に属するある作家志望の青年の話だよ――。
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