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車を1時間ほど走らせて、くだんの友人宅に到着した。 友人の住まいは寂れたキャバレィの2階だ。 古めかしい、カビの生えたような言い回しをするならば、それは、時代に置き去りにされた隠者のための隠れ家といったところか。 言い回し通りの、思わず戸を叩くことさえ躊躇わせる外観は、ため息が出るほどに変わっていなかった。 汚い木扉が開くのをひたすら待つ私は、手持ち無沙汰に煙草をくゆらせながら、何度目かになる呼び鈴を鳴らす。 錆びた呼び鈴は、鈍く、くすんだ響きで、機能まで損なわれているのではないかと不安にさせる代物だった。 私は嘆息のように煙を吐きだし、何の気なしに空を仰ぐ。 ふと、見上げた夜空は寒々しく、山口の夜の暗さを実感させる。 山口と言うだけあって、そびえる高山が天蓋のように月光を遮ってしまうのだ。おまけに、この周辺にだけは外灯すら存在しない。 郊外に位置する、田舎においても辺鄙な場所なのだ。 ここについて、とある知人が非常に分かりやすく語っていた。 曰く『都会の闇っての? そんなのより、ここのが不気味でよっぽど怖いぜ』と。 まるで、心霊スポット扱いだ。 そんなところに居を構えるような人物が、相当に変わり者だということは想像するに難くなかろう。
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