そして僕は今日も海に出る

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家に着くと、自分の孤独に気づかされる。 早くに両親と姉を亡くし、義人の家に養子に貰われたが、不幸にも義人の家族も…僕が養子に貰われた2年後に亡くなってしまった。 つまり、今は義人と2人暮らしということになる。 昔の日本家屋のような造りの小さな家は、酷く寒かった。海の近く、波の音が、大きすぎるほどよく聴こえて、家を一歩出ればもうそこは砂浜。 そういった環境で暮らしているため、潮風で家は揺れるし、外壁はボロボロで、でも義人のような海人には嬉しい家だった。 畳に座り、炉に火をつける。どうやら相当疲れたらしく、頭がボーとして、目が霞む。思わずその場で横たわり、そっと目を閉じた。 「おい!おーい湊ー!起きろー!」 「ん?うぅん…ああ義人…あれ僕寝てたの?」 「ああ、ぐっすりとな?」 どうやら僕は寝ていたらしい。炉の火は消え、さらに寒気が増したように思えた。 まだ眠気が覚めなくて、ボーとした目で義人を見た。 義人の片手には、いつものように袋いっぱいのあさりがぶら下がっていた。 しかし、海で捕ってきたものではない。 「またあさり…?」 「おう、スーパーで安売りしてた。」 「いや…だからいつも言ってるけど……海に何しに行ってるんだよ……」 呆れたように肩を落とす僕を尻目に、義人はあさりを調理し始めた。 惚けてそんなことを尋ねたが、僕にはその理由が分かっていた。 そして、あさりを茹でる段階で、先程まで黙っていた義人が急に背を向けたまま話し始めた。 「俺さ‥海が好きなんだ。漁の知識なんて無くていい…船と、海に出たいって気持ち、それだけありゃ充分だ。」 嘘だ。そんなの嘘だ。僕には分かっていた。何故、毎日のように宛もなく海に出るのか、何故、たった今そんな嘘を吐いたのか。 僕には、分かった。 だから僕は拳を強く握りしめ、義人から顔をそらした。
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