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「僕らの家族を奪ったのに?」
もう、全てを隠し続ける義人が、可哀想で仕方なかった。
義人は何も言わず、家にはただ、あさりが茹でられる音に混じって聴こえる波の音が、響いていた。
「僕らの家族」
「黙れ!!……黙れ黙れ黙れ…」
はあ、はあ…
突然、義人の息が荒くなった。シンクの中に菜箸を投げ捨て、頭を押さえながら、義人は玄関へ向かい、靴を雑に履き始めた。
僕は、ドアに寄り掛かるように手をかけた義人の背中に言った。
「由香ちゃんは見つからないよ……無理なんだよ!義人、僕は初めから知ってたんだよ?海に何をしに行くか、何故海に出るのか…海が好きなんて嘘だ…義人の家族も…恋人まで奪われたじゃないか!」
そうだ‥僕の家族も義人の家族も恋人も…みんなみんな、あの海に奪われたんだ。
心地よい波の音。しかし、昔からその心地よさと、憎しみが並行して心に染み込んでしまう。
だから、海は嫌いなのだ。
そう、義人と僕の家族の遺体は発見されたが、義人の恋人、真島 由香だけは、まだ行方不明扱いとなっている。
しかし、行方不明になって早2年…もう島のみんな、由香ちゃんの家族すら諦めているのに……義人だけは、今もまだ由香ちゃんが生きていると信じているのだ。
海は、時に本性を現す。普段は波によって、心地よい音色を奏でているが、時より、その音は、地獄から鳴り響いているような轟音に変わり、人の命を、魂を、奪い去っていくのだ。
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