3095人が本棚に入れています
本棚に追加
/1312ページ
「ほんま綺麗な梅どすね…」
警戒心が消えたのか、穏やかな声で話し掛けられて肩の力が少し抜けた。
『…あぁ、綺麗だ』
間近に居たのにろくに見てなかった梅を改めて見渡し、その見事さに少し目を細める。
そうだ。
俺は梅を見に来たんだった…なのに。
今、気になるのは隣の女。
…は?…気になる?
気になってるのか?
分からん!何故だ!?
さっきから気が落ち着かない。
必死に平静を装っているが、胸は五月蝿くドクドクと変に脈打ったまま。
……。
ハァ…意味分かんね。
もう考えんのは面倒だ…気のせい気のせい。
と、溜め息を吐いた時、女はハッとした様に俺に向き直り、ペコリと頭を下げる。
「ご親切に、お懐紙をおおきに」
まだ少し硬い、ぎこちない笑みと共に俺に向けられた真っ直ぐな視線。
それに合わせるとドキリと大きく胸が鳴った。
何だ!?
慌てて目を逸らし梅の花を見上げる。
『気になさるな。可愛らしい女子に使われた方が懐紙も喜ぶ』
ウッ…また変な事口走っちまってるぞ…落ち着けって!
妙な汗が背中を伝う感触に顔をしかめかけた時、クスッと漏れた声に思わず隣を見る。
「懐紙が喜ぶやなんて、面白いお侍様どすなぁ」
…!
わ、笑ったぞ!
最初のコメントを投稿しよう!