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…ん?
…まさかの出来事に動揺してたモンだから、少し聞き損ねたみたいだな。
『すまん。何処だって?』
俺は気持ちを落ち着ける為に息を吐き、着物の袖に両手を突っ込んで腕を組みながら再び聞いた。
すると、事も無げにニコリと笑って女が言う。
「帰るとこはありまへん。飛び出して来ましたから。う~ん…家出?どす」
肩に掛けた羽織を胸元に合わせながらニコニコニコニコ…
何だ家出かよ。
あ?
『…はあぁ?』
俺の顔は今日…いや、ここ最近で一番崩れただろう。
何時もの余計な感情を表に出さない努力、虚しく。
「…ふッ!お、お侍様の顔が…ふふッ!」
女が突然、口元を着物の袖で押さえ笑い出した。
顔?
顔が何だ?
じゃなくて、家出だって!?
「ふふッ!お侍様の素敵なお顔が…」
顔を上げて、クスクスと愛らしく笑い続ける女に暫し見とれ…てる場合じゃない。
ハッと、表情を引き戻した。
『笑いごっちゃねぇ。こんな時分に女一人歩きかと思えば…家出だと?尚更タチが悪いじゃねぇか!』
…あ゛
しまった…思わず怒鳴っちまった。恐がらせたくないのに…つい癖が。
恐る恐る、女の様子を窺う。
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