恋の道 壱

12/32
前へ
/1312ページ
次へ
女は更に怒られたとでも思ったのか…流石にシュンと深く項垂れていた。 その姿に眉が下がる。 思わず手を伸ばしたくなるのを堪えて息を吐いた。 何だか胸が痛いのは気のせいじゃねぇ…そんな姿見たく無いんだが…今は我慢だ。 さて… 『…俺はこの京の町を警固する役を仰せつかっている』 俺が静かに話し出すと、女はゆっくりと顔を上げた。 涙は無い…良かった。 もしかすると泣かれたかと実は冷々していたんだが。 『少しでも怪しい者は屯所に連れ帰って、取り調べなければならん』 俺は女の瞳をジッと見つめながら言った。 綺麗な瞳に吸い寄せられそうになる。 俺はやはり、出会って間もないこの女が本気で―… 「お役人様どすか?怪しげな者を追ってはる途中どしたんか?えらいすんまへん!そんな時にウチを気遣ってくれはったんどすね?あぁ~ウチが邪魔してしもたんやぁ…」 ……この言い回しでは通じなかったか。 まぁ、そうだろな。 両頬に手を当ててアワアワしている女に溜め息が出る。 と同時に、その姿が可愛くて顔が緩みそうになる。 いかんいかんと、グッと奥歯を噛み締め緩むのを耐える。 だが、可愛いモンは可愛いだろうよ。 何だこの生き物は。
/1312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3094人が本棚に入れています
本棚に追加