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と、急に勢い良く女が近付いて来た。
『ッ!?』
ハラリと肩に掛けていた羽織が左肩だけ外れる。
「ウチの事は気にせず!怪しげな者を捕まえに行って下さい!」
俺を見上げ必死な顔で叫ぶ。
駄目だ…可愛過ぎる…。興奮して少し赤くなった頬に触れたい。
最初に見た儚げな美しい印象は何処へやら、クルクル変わる表情に釘付けになりそうだ。
いや、最早釘付けか。
きっと…初めて見た瞬間から俺はもう心を奪われていたんだろう。
参った。
もっともっと色んな顔が見てみたい…。
俺は努力虚しく既に緩んだ口元を少し上げた。
『いや、だから』
「あ!羽織!すぐにお返ししますさかいに―」
女が慌てて肩に掛けていた羽織を取ろうとした時…
『…クハッ!ハハッ』
限界だった。
アワアワした姿が可愛いのも勿論、女は慌て過ぎて羽織は肩に掛けていただけという事を忘れたのだろう。
おまけにさっき動いた拍子に、羽織が左肩だけずり落ちた事に全く気付いていない。
結果、気が動転した女は一生懸命、自分の着ている着物の左袖を右手で引っ張って脱ごうとしていたのだ。
おかし過ぎて流石に吹き出すのを我慢できなかった。
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