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気が付いて無かったが、河原に結構な間居たらしく…陽が傾き始めている。
申(さる)の刻…夕七ツくらいだろうか?
町に戻ると昼間よりも幾分人が減ったみたいだ。
だが俺は未だに小さな手を、しっかりと繋いだままだった。
笑いながら話に夢中な莉亜が、その事に気付かないのを内心ほくそ笑む。
「ほな、土方はんは何処がよろしおすのん?」
クルクルと良く動く瞳を、俺に向けて覗き込んで来る莉亜の話の矛先は花見の事。
『そうさな。やっぱり嵐山じゃねぇか?』
「もぅ。だから嵐山はちょっと遠過ぎますて。やっぱり清水はんの方が」
『清水寺は何時でも行こうと思えば行けるじゃねぇか。折角なんだしよ、嵐山だろ』
「…うーん。ほなら朝はようから出掛けやなあかんくなりますえ?」
困った様に眉を下げてる隣の愛しい女に、フッと笑い掛ける。
『そんなに早く出なくて良い。お前の脚じゃ、どの道日帰りは無理だろ』
「へ?」
『向こうで宿を取るからよ。次の日に花見して帰りゃ良い』
「ええ!?」
ククッ!
慌ててらぁ。
そりゃそうか…この俺と一泊すんだから何かされるとでも―
「そんな―…」
オロッとした顔の莉亜に、俺はついついニヤけそうになる。
『ん?』
「そんなら…仕事が出来んくなってまいます」
『そっちかよ!』
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