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大通りを抜け田畑が広がる道に出た時、少し向こうにぼんやりと…白く輝く木を見つけた。
(アレか…見事だな)
その見事さに思わず立ち止まり、夜空に浮かぶ満月と美しい梅の姿に暫し、感じ入っていた。
そして。
月明かりを浴び、今まさに満開を迎えたであろう梅を間近に見る為に歩き出そうと…した足を止める。
(…誰か居る)
梅の木の下に後ろ姿が見えた。
目を凝らし少しずつ近付いてみると…
(…女?)
男は習慣で手に掛けていた刀の柄を離し、再び立ち止まる。
(こんな時分に女一人か…)
今、京の町は治安が悪い。
夜は特に…そんなご時世で女の一人歩きとは…男は眉をしかめながら呆れた様に息を吐いた。
(誰かに襲われても知らんぞ)
チッと小さく舌打ちして、睨み付ける様に女の後ろ姿を見ながら思案する。
(ほっといて帰るか…一応注意を促すか…いや、面倒くせぇ。とっとと帰るか)
一気に興醒めしたのか、つまらなさそうに踵を返しながらも梅の木にまた、視線を流した。
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