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襖を閉めて火鉢の前に戻る。
「お疲れさんどした」
お松がニコリと微笑んで銚子を持ち上げたので杯を向ける。
トクトクと注がれて揺れる酒を見ていたら又溜め息出た。
「あぁ…全く…。栄太は相変わらず遠慮が無くて参る」
「それはしゃあないとして…」
え、仕方ないの?うーんまぁ、性格だからなぁ…
「栄太はん…あの子の事になるとタガが外れたみたいにならはるから心配やわぁ」
「うーん…」
酒をチビチビ飲みながら想像してみる。
………ゾッとした。
「ウチは…あの子が出てって…寂しおすけど良かったとも思てますのんぇ」
それは…意外だな。あんなに可愛がっていた君がそんなふうに言うなんて。
驚いてお松を見ると、自分の杯の縁を細い指先でなぞって柔らかな笑みを浮かべている。
…色っぽいなぁ…じゃなかった。
「それは…何故だい?」
「…此所におったら…この先危ない目ぇに遭うかもしれまへんやろ?」
「それは…まぁ、確かに…」
気まずそうに呟いた僕をチラリと見てクスリと笑う。
「そんな顔せんと。ウチはどんな目に遭ってもよろしおすけど…あの子には…」
「…幾松…」
僕は彼女の細い肩を抱き締める事しか出来なかった。
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