恋の道 弐

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文久四年 三月朔日― 改元あり 元治元年 三月。 咲き誇った梅もとうに終わり、桜の季節が直ぐそこまで近付いて来ていた。 京の壬生村にある新撰組屯所内の一室。 文机に向かって書き物をしていた男は一段落着いたのか…筆を置き、煙管を取り上げた。 『…』 莉亜がここへ来てひと月と少し…か。 随分と仕事にも慣れた様だし、一安心ってとこだな。 紫煙をゆっくり吐き、楽な姿勢に座り直す。 始めの頃はてんやわんやだったからな…大所帯に固まってたっけか。 『…』 山盛りの洗濯物を、唖然と見ていた莉亜の姿を思い出し小さく笑う。 「思い出し笑いですか?珍しい事もあるモンですねぇ」 声と同時に開いた障子を睨み…無遠慮に入室した野郎を更に、きつく睨み付けた。 「あらら、怖い顔」 『…』 また、邪魔しに来たのか。 『何度も同じ事を言わせるな。部屋ぁ入る前に声掛けて、返事きてから入れっつってんだろが…馬鹿野郎』 「声、お掛けしましたよ?」 『嘘吐け…全く…』 俺の傍で座り込み、悪戯っぽく笑ってやがるのは…副長助勤、沖田総司だ。 色黒で…それなりに大柄だが、顔が幼い故にか正直、強そうに見えねぇらしいが新撰組で一、ニ…の剣の使い手だ。 『で?何か用か』 総司を見ずに問うた。 「用…ですか」 どうせ…暇潰しだろうよ。 ニコォと、邪気の無い(実際は溢れる程ある)笑顔を浮かべ、頷いた…のが気配で分からぁ。
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