3095人が本棚に入れています
本棚に追加
/1312ページ
「堪忍してね…」
『…そいつに何か悪さでもしたのかい?』
無意識に…そう、ほぼ無意識に俺は話し掛けていた。
女の寂しげな声につい反応したというか。
しかも…何つまんねぇ事を言ってんだ俺ぁ。
「えッ!?」
心の中で頭を抱えた時、女が弾かれた様に振り返った。
『―!』
振り向いた女を見て俺は思わず固まる。
先程垣間見た時は儚げな美しい女と感じたのだが…目の前で見ると印象が変わった。
緩やかに流れる様な眉に可愛らしい鼻、思わず手を伸ばしたくなる滑らかな白い頬は柔らかそうで。
ぽてりとした唇は紅も差していないのに艶やかな桃色。
どちらかと言えば美しいよりも愛らしいって表現の方が正しいな。
かなり…小柄な身体が、余計にそう思わせるのかもしれない。
だが、印象を覆された事だけに驚いた訳ではなかった。
俺の姿を捉えたまま見開かれた大きな黒曜の瞳は、ユラユラと揺れていたのだ。
大粒の涙を溢れさせながら。
女の揺らめく視線と交わった瞬間、一際大きく俺の胸が跳ねた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!