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「あぁ。本当に助かるよ。料理も美味いし細かな気配りも出来て、屯所が急に明るくなった様だね」
笑窪を出しっぱなしの近藤はいつも以上に優しい顔をしていた。
「ふふっ。近藤さんは莉亜さんをまるでご自分の娘の様に可愛がってらっしゃる」
「いやぁ…ハハッ」
「着のみ着のままだったらしい莉亜さんに着物を誂えたり…お小遣いもコッソリ渡してるでしょう?」
「ありゃりゃ。バレてたか」
二人の笑い声が響いた。
「着物を誂えたと言えば…あの時の歳の顔…思い出しても身震いが出るよ」
自分の両二の腕を寒そうに擦る近藤に山南は思わず吹き出した。
「そうでしたねぇ。新しい着物を嬉しそうに着て、近藤さんにお礼を言った彼女を二度見した後…近藤さんを鬼の形相で…ふふっ」
「俺は歳にあんな顔されたの初めてだったから、そりゃあ恐ろしかったよ!何かこう…目だけで殺られそうだった…」
大きな身体を縮込ませ項垂れる姿は哀愁を漂わせていた。
山南はまぁまぁ、と近藤に酒を勧めながら苦笑いを浮かべる。
確かに土方は恐ろしい殺気を纏っては居たが、ハッとして直ぐ様冷静を装った。
山南はその時、土方の副長としてでなく男としての怒りを初めて見て目を丸くしたのだ。
「あの土方君がねぇ…」
酒盛りの振り出しに戻った様な山南の呟きに重い頭を上げた近藤は、猪口を置いて腕組みしながらウンウンと頷いた。
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