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「兎に角…京に来てから歳はまともに笑わなくなった。たまに見せる笑顔はまるで偽物だ」
「そうですね…」
「今日も夕餉の時に見せた口元を吊り上げただけの困った様な笑顔…あの顔を見る度に何だか寂しくてね…」
ハァと溜め息を吐いて猪口の酒を一気に煽る。
「でも、でもだよ山南君!」
コン!と小気味良い音を響かせ猪口を置くと、キラキラした笑顔を山南に向ける。
クスリと笑った山南も先程とは違う明るい表情で頷く。
「あの娘が…莉亜が来てからは俺も見た事ない様な顔で笑うんだよ!何というか柔らかくて…」
「自然に出てしまった様な?」
「そう!そうなんだ!アレは無意識だよ絶対!」
興奮して鼻息の荒くなった近藤に笑いながら、落ち着いて下さいと言う山南も実は興奮気味だった。
「それにね?コレは歳には秘密だよ?何度か歳の部屋の前を通り掛かった時に…我慢出来ずに覗いてしまったんだけどね」
「えっ!?覗いたんですか?良く見つかりませんでしたね…」
山南は少し呆れ気味に呟いた。
「そりゃ気配消したからね。それでコッソリ覗いた途端、笑い声が聞こえてね。吃驚したよ…あんな屈託の無い歳の笑顔を見たのも初めてだった」
「ほほぅ…」
「彼奴もやっと見付けたんだよ。自分の心を休められる相手を…。薄々感付いていたがきっと…心底惚れてるんだとその時確信したんだ」
「…えぇ。きっと」
ニッコリ微笑む山南に笑窪全開で力強く頷く。
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