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「…だ、誰?」
女が僅かに後退り、声を発するまで俺は見惚れていた。
と、思う。
綺麗な涙だ、と。
女の涙なんて散々見て来たが、こんな風に感じた事など一度も無かった。
『……』
大人しくなっていた胸のざわめきが再び五月蝿くなり始める。
俺は直接触れて拭いたい衝動を堪えて、懐から柔らかい方の懐紙を抜き女に差し出した。
『可愛い顔が台無しだ』
……おい待て。
俺はこんな事言う様な奴だったか?
いや、違う。
さっきから何言ってんだ俺は!
凄ぇ気持ち悪ぃ。
内心焦っているがおくびにも出さず、女に懐紙を渡そうと一歩近寄る。
その瞬間、見えた怯える顔に何故かズキリと痛む胸を不思議に思った。
「…あ」
女は自分の涙に今気付いた様に手を頬に添える。
『ほら』
これ以上怯えさせない様に、そっと懐紙を握らせる。
そのまま女に背を向け、梅の木に近付きゆっくりと見上げた。
……怯えさせたく無い?
何故。この俺が気を使うなんざ…どうしてだ。
それにさっきからやけに動悸が…緊張している?
こんなちっこい女一人に?
フン…そんな筈ねぇ。
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