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「余り…したくありませんが…山崎君に調べて貰いますか?」
山崎とは新撰組の諸士調役兼監察、山崎烝の事である。
敵の動きを調べ上げる任務のみならず、組の人間を取り締まる任務も担っている役職だ。
優秀な人材で近藤も土方も信頼を置いている。
「それは歳の判断に任せよう。あいつも自分の行動が危険だと承知の上で彼女を連れ帰った筈…その歳が調べようとしないのは本気で信じているからだ」
腕を組みながら、近藤はフッと笑った。
「あいつに…甘いと怒るかい?信じる、信じないなんざと」
「…いいえ。時と場合、そして相手、関係―…全てにおいて、お二人には…嘘か誠かを互いに見極められる仲…でしょう?」
「ああ」
迷い無く答え、破顔する。
山南も、表情を柔らかく崩して首を振った。
「少なくとも私は、甘いとは。それは…お二人の信頼が深いが故になせる事」
「万が一の時は、腹ぁ切るって言ってたよ。嘘吐けって言ったけど…どうも本気らしい。あの歳がだよ?」
「!腹を…あの土方君が…?」
「彼女を調べもせず受け入れた俺も同罪覚悟の上だ。ただ俺は歳を信じるだけだよ」
「…では考えの甘い私も同罪ですね。土方君が信じた彼女を…信じましょう」
ふふッと楽しげに笑って猪口を掲げる。
「まぁ、幸い彼女から不穏さは伝わってきませんしね。一応、シレッと聞いてみますか」
「さ…んな…ん君が!?歳にバレたら…流石にシバかれない?」
「大丈夫ですよ。建前上と申しますか。なので…私から言っておきながらアレですが、お忘れ下さい。さ、仕切り直しです」
「そ、そう?そう…だね。歳の為にも…兎に角!あの計画も。実行あるのみ」
「承知」
山南の掲げた猪口へ、強く合わせるのはまるで金打。
刀では無く猪口だが、カチーンと後を引く音を響かせ…消えて行った。
「「乾杯」」
優しい鬼を知る、二人の優しい協力者の夜は…
まだまだ、更けない様だ。
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