求ムモノハ

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「こんな所で暇つぶし?」 「…こんな所で悪かったね」 問題児が一人増えたよ… 今日はお松とのんびり過ごしたかったのに。 「ハアァあ~ぁ~…」 と、肩を落とした桂は火鉢に手をかざす。 「話には聞いていたけど、本当にまだ彷徨(うろつ)いてたんだね。竒兵隊の開闢(かいびゃく)総督が何やってんだか」 「…」 面白そうに目を細める栄太を、静かに見返すのは…目尻が少しつり上がった…感情の読み取れぬ光を漆黒に宿す双眸。 散切頭で袷を軽く着崩した上に片膝を立て、障子に背を預けたまま口元だけで微笑した男の名は、高杉晋作。 行儀の悪い格好であるが…何故か輩(やから)的な匂いは無く、逆に高貴さすら漂わす不思議な雰囲気の持ち主であった。 「何時の話をしておる、稔麿」 「あ、こっちではまだ栄太って呼んでくれない?その方がさ…気が楽なんだ」 ニヤとした栄太へ散切頭を小さく頷かせた時に襖が開き、お松が茶を持って部屋へ。 「あ…すまないね…お松」 「…」 各々に茶を置いて部屋を無言で退出したお松を見送りながら、やっぱり怒ってるんだ…と桂は少し青冷めた。 今日はきっと来客も無いだろうからと、二人で酒を酌み交わす約束をしていたのに…。 涼しい顔で茶を飲む客…いや、問題児二人を恨めしげに見ながら湯呑みを持ち、口へ運ぶ。 「ッうあっぢ!」 何これ煮え湯!? 「あぢぢ」 危うく放り投げそうだった湯呑みを置いて、片手で舌を扇ぎつつ…恐ろしい凶器に思わず飛び退った姿勢のままで、閉ざされている襖を見た。 「熱いですか?丁度、良い加減ですけど?」 栄太が不思議そうに首を捻りながら茶を口に運び、次いでゴクリと飲む音を鳴らす。 口を押さえつつ高杉を見れば、また旨そうに啜っている。 「…」 怒ってるんだね…お松… 何かが溢れそうで顔を上向かせて目をしばたかせると、襖の外からプッと吹き出す音と共に、軽やかやな足音が去って行く。 「…………」
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