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「月姫は。まだ熱が下がらねえのか。」
「うん。意識はたまに戻るし、前みたいに触れられないわけじゃないからただの熱だと思うんだけど……。」
「ちっ。あんな土砂降りの中走りまわりゃ誰だって風邪ひくんだよ。」
あの日。
内山との会合が早めに終わった俺たちは月姫が心配で急いで宿に戻った。
だがアイツはいなかった。
外に出ることは知っていたが、待てども待てども帰ってこず、そろそろ雨も本降りで迎えに行こうかと思った矢先。
月姫は帰ってきた。
びしょぬれ姿で、微かに血のにおいをまとって。
俺の鼻が他の奴よりも効くことを分かって、わざとこいつは血のにおいを消すためにずぶぬれになったに違いない。
この女はそういう頭のまわるやつだ。
今度は何を仕留めてきたのか、どんな嫌味を言ってやろうか、そう思っていたら。
――――グラッ。
「お、おいっ?!月姫っ?!」
突然月姫は俺に向かって倒れてきた。
そしてその体の熱さに驚愕する。
着物は雨のせいでものすごく冷たいのに、体が異常な熱を持っているのだ。
「稔麿!稔麿!手ぬぐいもってこい!女将!風呂沸かしてくれ!」
俺は月姫をしっかりと抱きとめながら大声を出した。
何事かと慌てて出てきた稔麿と女将は、俺と月姫を見るとまた慌てて戻って行った。
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