4594人が本棚に入れています
本棚に追加
/685ページ
と、そこに部屋に向かってくる足音が一つ。
その人物は部屋の前で止まると律儀に外から声をかけた。
「副長。少しお話ししたいことが。」
「………斎藤か。入れ。」
はい、という短い返事の後一君が中に入ってきた。
中に僕たちがいることなんて知っていたかのように、特に僕たちを気にしない一君に、同い年ながらにいらっとした。
その冷静さにね。
「話って何だ?」
「二つあります。一つは妖しい動きをしている奴らのこと。
もう一つは、吉岡のことです。」
「月姫さんのこと?!」
一君の言葉が信じられず僕が驚いて大きな声を出せば、一君は少しうるさそうに僕をちらっと見たが、すぐに土方さんに向き直った。
ふん。
何さ、大人ぶっちゃって。
「先に妖しいやつらの話をしろ。吉岡の話はあとだ。」
「はい。」
こういう時、やっぱり土方さんも大人なんだなって思う。
僕なら先に月姫さんの話を聞き出すもん。
僕の中での優先順位は常に一番が月姫さんだから。
一君の話はこうだ。
最近ある店に長州が出入りしているらしいということ。
武器らしきものを運んでいること。
何か企みがあるのか、決まった宿で会合を開いているということだった。
なぜ監察である山崎君でなく、一君がこんな情報を持っているのか不思議だったが、常に気配のないような一君だ。
きっと土方さんとかにやらされているんだろうと思った。
後で聞いたけど、山崎君はこういった“表向き”的な仕事はあまりしないのだとか。
自分が調べるのは、本当に“裏”の部分で、普通では得られない情報とかを扱うのだとか。
一般人の僕には、裏だとか表だとかの区別はよくつかなかったけどね。
.
最初のコメントを投稿しよう!