帰京。そして池田屋。

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と、そこに部屋に向かってくる足音が一つ。 その人物は部屋の前で止まると律儀に外から声をかけた。 「副長。少しお話ししたいことが。」 「………斎藤か。入れ。」 はい、という短い返事の後一君が中に入ってきた。 中に僕たちがいることなんて知っていたかのように、特に僕たちを気にしない一君に、同い年ながらにいらっとした。 その冷静さにね。 「話って何だ?」 「二つあります。一つは妖しい動きをしている奴らのこと。 もう一つは、吉岡のことです。」 「月姫さんのこと?!」 一君の言葉が信じられず僕が驚いて大きな声を出せば、一君は少しうるさそうに僕をちらっと見たが、すぐに土方さんに向き直った。 ふん。 何さ、大人ぶっちゃって。 「先に妖しいやつらの話をしろ。吉岡の話はあとだ。」 「はい。」 こういう時、やっぱり土方さんも大人なんだなって思う。 僕なら先に月姫さんの話を聞き出すもん。 僕の中での優先順位は常に一番が月姫さんだから。 一君の話はこうだ。 最近ある店に長州が出入りしているらしいということ。 武器らしきものを運んでいること。 何か企みがあるのか、決まった宿で会合を開いているということだった。 なぜ監察である山崎君でなく、一君がこんな情報を持っているのか不思議だったが、常に気配のないような一君だ。 きっと土方さんとかにやらされているんだろうと思った。 後で聞いたけど、山崎君はこういった“表向き”的な仕事はあまりしないのだとか。 自分が調べるのは、本当に“裏”の部分で、普通では得られない情報とかを扱うのだとか。 一般人の僕には、裏だとか表だとかの区別はよくつかなかったけどね。 .
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